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ストーリー

「日本の農業を変える」をビジョンに、独自のビジネスモデルで魅力的な農業を目指す!

日本では農業従事者の高齢化に伴い、荒廃農地や耕作放棄地が年々増加傾向にある。一方、キツい、儲からないという従来のイメージから新規就農者の参入が少ない現実もある。そんな現状を払拭し、元気を失いかけている日本の農業の変革を体現しているのが、長野県を拠点とする農業法人、株式会社栄農人(エナジー)である。社名に込められているように、日本の農業に「エナジー」を与えたいと2015年に設立。わずか6年で、正社員45名、パート・研修生約60名を抱えるほどの急成長を遂げている農業法人である。同社が考え、実行している「新しい日本の農業」とは、どのようなものなのか。代表取締役の柳澤 孝一氏に話をうかがった。

自社生産農場に加え、全国の生産者との協力体制を構築し、あらたな農業ビジネスに挑む

長野県諏訪郡に本社を持つ栄農人は、2015年に設立されたばかりの農業法人だが、現在、全国各地に約130ヘクタールの自社生産農場を持つ一方、大規模な生産農家と契約し、農業生産、加工、青果卸を主要業務としている。設立初年度から10億円を超える売上高を計上、2020年7月期の年商は26億5,000万円を達成。代表取締役の柳澤氏は「ラッキーでしたね。奇跡的でした。」と言うが、運だけで得られる売上高ではない。当然ながら、そこには柳澤氏のバックボーンや従来型農業とは異なるビジネス観によるところが大きい。
柳澤氏は東京農業大学で学んだのち、企業に就職してキノコの研究を行っていた。その後、起業してキノコの製造・販売を行う会社を設立。順調にビジネスは成長していたがヨーロッパ進出で挫折を味わう。栄農人を立ち上げる以前は、岐阜県にあるガス・石油会社、株式会社マルエイのアグリ事業部門でシイタケ栽培の技術指導を行っていたが、日本の農業を変えたいという強い思いから再度起業を決意。マルエイからの出資という後押しを受けて、栄農人を設立した。

「25歳ぐらいから農業に関係する仕事をしてきたので、販売先となる大手スーパーマーケットや生産側の企業などとの関係性ができていたんです。私が起業するなら『お付き合いしますよ』と言ってくださるかたがいらっしゃった。私のビジネス上の基本スタイルは、マーケット・イン。まず先に営業を行い、販売先を確保するというものなのですが、起業時には以前からお付き合いのある大手の販売先がいくつか決まっていたことが大きかったですね。」
設立当初はまだ自社農場を所有していなかったため、マルエイの生産物、柳澤氏が技術指導した複数の契約農家からキノコ類を仕入れて販売を行うところからのスタートだったという。はじまりこそ仕入れと販売のみのビジネスだったが、すぐに自社農場を持ち、独自のスタイルを築いていくことになる。

「源流主義」を掲げ、生産から流通まで一貫して自社でまかなう体制を確立

栄農人が掲げる「源流主義」とは、自分たちでつくって、自分たちで販売するというもの。農業は自然災害や天候異変に大きな影響を受けてしまうが、そのリスクヘッジとして各地に自社農場や協力農場を持ち、土工栽培、ハウス栽培、施設栽培を展開することで、生産物を安定供給する。経営環境が安定すれば、生産者はつくることに専念できる。それを継続することで、日本の“食”の未来が見えてくるという考えだという。また、販売にあたってはJAや市場を介さず、大手スーパーマーケットなどの配送物流センターに直接納品するスタイルを取っている。通常、生産者が農産物を収穫してからスーパーマーケットなどの小売店の店頭に商品が並ぶまでに3日~1週間かかるといわれているが、栄農人では1~2日で届けるという。まさに生産から販売までを自社で担う独自のスタイルが可能にしたスピード感である。
「日本の農業を変える、ということを考えた場合、売るかたも買うかたも顔の見える取り引き。誰がつくって、誰が買ってくれているのかがわかる取り引きを目指して、今のスタイルになりました。ネームバリューのない、新しい会社ですから立ち上げ当初は大変でしたが、最近は私どもの安定供給にお客さまもメリットを感じてくださっているので、このスタイルも浸透してきたと思っています。」

ちなみに栄農人の生産物は、各種のキノコをはじめ、レタスやキャベツなどの葉茎菜類、ダイコンやニンジンといった根菜類からシャインマスカットやイチゴなどの果物類と多岐にわたる。さらには、各種カット野菜の販売にも力を入れており、その加工や包装も自社で行っている。
「カット野菜の販売は3年ぐらい前から始めたのですが、きっかけはアメリカへ行ったときに見たスーパーマーケットの野菜売場でした。アメリカではカットされた野菜のウェイトが大きいんですよ。近い将来、日本もアメリカのようなスタイルになっていくだろうと考えて始めたものです。」
販売先であるスーパーマーケットなどからのニーズを受けて開発したのではなく、柳澤氏のアイデアによるもの。また、栄農人では安心、安全への取り組みとして世界基準の農業認証『GLOBALG.A.P.(グローバルG.A.P.)』を2017年に取得。これもまた農業の未来を見据えたものであるという。

「まだ日本では認知度がそれほど高くはないのですが、海外では必須となっている認証です。商品の安全だけではなく、従業員の安全や近隣の住民、地域に生息する動植物の安全も含み、残留農薬や環境破壊などさまざまなリスクを小さくするための管理体制に対する認証です。少なくとも外資系企業との取り引きには欠かせないものですし、弊社が大手企業と直接取り引きができているのも、この認証を得ていることが大きいと思います。」
これまでの日本の農業にはない、新しいビジネスモデルを構築し、展開しているのが栄農人の強みであり、短期間で急成長を遂げた理由と言えるだろう。

次世代の農業エキスパートを育成することが、日本の農業の未来をつくる

現在、栄農人には45名の正社員が在籍しているが、そのほとんどが新卒で入社。平均年齢は約26歳と若者たちで構成されている。農業生産に従事するだけではなく、商品開発や各種プロジェクトなど多彩な事業を展開している部分に魅力を感じて入社するケースが少なくないという。実際に年に1回、新事業提案会『NEXT ONE CONTEST』を開催し、採用された提案が新規事業として実現しているのだとか。
「自分がやりたいと思ったことをやれないと、人は力を発揮できないと思っているんです。ビジネス化できることが前提ではありますが、社員がやりたいことをやらせるのが私の主義。それに対して、社員たちもやる気を持って取り組んでくれています。余談ですが、社名の栄農人(エナジー)も私が考えたのではなくて社員のアイデアなんですよ。(笑)」
また、栄農人ではベトナム、インドネシア、ミャンマーからの研修生の受け入れを積極的に行っている。農業従事者不足の解消を目的としているだけではなく、アジアにおける人材育成の思いもあるのだという。

「すでにベトナムに子会社を設立しているのですが、その会社の社長に就任しているのは、うちで3年間研修して帰国した人なんです。これから日本のマーケットは縮小する一方ですが、ベトナムは今後成長が見込める国ですし、日本で農業技術を学んだ彼らが、自国の発展に力を発揮してくれることを期待してもいます。実際、彼らは夢と希望を持って日本へやって来るので、すごく一生懸命でエネルギッシュなんですよ。ある程度、日本語を勉強してから来日するので一緒に働くうえでの大変さや不自由さは全くないですね。これも私の方針なのですが、日本人だろうが外国人だろうが、優秀な人材にはたくさん給与を支払います。頑張ってくれた分だけ還元する。その評判が広まっているようで、研修生の仲間たちが弊社で働きたいと言ってくれるぐらいの反響になっているんですよ。」
農業や農業事業を通じた人材育成も栄農人のミッションのひとつ。柳澤氏の思いである「日本の農業を変える」という志を共有する若者たちが集い、若い力が会社の発展を支えている。そんな栄農人が、日本の農業にどんな影響やエナジーを与えてくれるのか。その未来が楽しみである。