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ストーリー
ペットの年齢や健康状態、あるいは歯石などニーズに合わせた多種多様なペットフードがある中、厳選された原材料を使い、製薬工場クラスの設備・衛生管理・品質管理を有する自社工場で製造・加工のすべてを行うことで高付加価値なペットフードを提供しているのが、富山県にある株式会社ワイエス・ワン。「いつも一緒に、より豊かな暮らしを」をコンセプトに、ペットフード製造で注目を集める同社の代表取締役社長の坂田義典氏に、製品づくりへの想い、未来に向けての展望をうかがった。
他社との差別化を図った高付加価値な犬用おやつとフードで事業を拡大
現在、ペットビジネスの市場規模は1.5兆円とも言われており、そのマーケットは年々規模を拡大している。この成長の背景にあるのは、「ペットは大切な家族」であるという飼い主の想いだ。その想いに応えるべく、安全安心で良質なペットフードの製造販売を行っている株式会社ワイエス・ワン。現在、本社と工場は坂田氏の故郷である富山県富山市にあるが、創業の地は東京の東中野。坂田氏が大学在学中の21歳のときだった。
創業当初は、洋服を仕入れてECで販売するアパレルからのスタートだったが、実家が鶏肉を原料にしたペットフードの製造を始めたため、製造工程で出る端材を東京に送ってもらい、それを犬用おやつとしてネット販売を開始した。大学卒業と同時に地元へ戻り、事業を継続するが、まだ現在のような犬用おやつの製造に特化していたわけではなかったという。

「いろいろと事業を模索していた中でも、ドッグフードの製造は継続していたんです。そのうち、犬用の洋服やグッズをつくっている地元の会社のかたと知り合いになり、私たちがつくったフードをノベルティにして洋服とセットで販売したいという依頼を受けるようになるなど、徐々に需要が増えていき、2009年からペットフードの製造に特化するようになりました。」
2009年は、ペット(犬および猫)の健康に悪影響を及ぼすペットフードの製造、輸入または販売を禁止する「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」が施行された年でもある。法律はできたが、それでも欧米に比べると日本のペットフードの安全基準は緩いと言われる中にあって、同社は当初からヒューマングレード(人間が食べるものと同等の衛生・管理基準のもの)の原料にこだわり、無添加・無着色・無香料の犬用おやつの製造を続けた。
「正直言って当時はヒューマングレードを特に意識していませんでした。ペットフードの法律に則って当たり前にやっていただけだったんです。ただ、結果的にメーカー各社との差別化を図る原点が、そこにあるのだと思います。」

画期的な低アレルゲン総合栄養食『DOZO(ドーゾ)』を主力ブランドに
同社では、犬用国産おやつ専門店『わんこの時間』というWEBショップでの販売とともに、大手メーカーのOEM生産も行っている。それを支えているのが、2019年に創業15周年記念事業として建設された第二工場。国際基準HACCPに準じた厳格な衛生管理を行うほか、外部機関に依頼して工場内の菌類検査を定期的に実施するなど、徹底した衛生管理と品質管理が高い評価を受けているという。さらには、フードの企画・開発・製造に加え、パッキングや出荷・配送までをワンストップで行う体制の強化によって、年々取引先の数を増やしている。

「昔から富山県は医薬品製造が盛んな土地ですから、それと同等の工場を目指して建設しました。そこから徐々に取引先が増えていき、現在はトップブランドやトップセールスを誇るフードのOEM生産を任されるまでになりました。その評価の一翼を担っているのは、この工場の存在かもしれません。また、私たちが目指している、犬の未病・予防、寿命の延伸に寄与するような製品開発も、最新設備を有する工場があってこそできることなのです。」
また、昨年5月からは、犬のおやつに加えてドッグフードの販売も開始。約2年の開発期間を経て誕生したのが、同社のコンセプトである「いつも一緒に、より豊かな暮らしを」の想いが込められた新ブランド『DOZO(ドーゾ)』だ。この商品の開発には、同社の社員である獣医師が携わっている。
「最近、鶏肉が食べられないとか、乳製品が食べられないなどアレルギーを持った犬が増えていて、何を食べさせたらいいのかわからずに困っている飼い主さんが多いんです。そういったかたがたに届けられるフードとして、品質と製法にこだわり抜いて開発したのが『DOZO』です。犬の主要アレルゲン31品目をすべてカットしていますので、安心して愛犬に与えていただくことができます。その分、価格は高くなってしまいましたが、多くのお客さまにご好評をいただいています。私自身、もうすぐ14歳になる犬が家にいて、安心して与えられ、いつまでも健康でいられるようなフードを与えたいと考えています。私と同じ想いを持つかたがたが多くいらっしゃるということなのだと思います。」
同製品は、基本的にWEBショップ『DOZO』でしか購入できないが、今後は主力ブランドとして成長させるとともに、別のビジネス展開も視野に入れているという。

ペットフードの製造販売業にとどまらず、ペットビジネスの新たな扉を開く
同社では2023年度中に、都内に『DOZO』の販売を行う実店舗をオープンさせる計画を進めているという。さらに将来的には、『DOZO』ファンとのコミュニケーションを図れるような店舗づくりや、一般の人を対象とした工場見学など、フードやおやつの製造販売にとどまらない事業展開を目指している。
「犬用のドラッグストアはありませんし、皮膚科とか歯科のような専門医がなく、飼っている犬に何かあったら動物病院に並ばないといけないのが現実ですが、そういったところに一役買えるかもしれないと考え、動物用医薬品の製造販売を目的に設立したのがグループ会社の株式会社ZOOQS(ズークス)です。社員である獣医師が中心となり、ズークスで研究開発を行ったことで『DOZO』のフードとサプリメントが誕生したように、おやつの製造とは別の形で今後も両社が協業していくのではないかと思います。」

また、ネットで商品を購入されるお客さまからは、飼われている犬の健康に関する心配事が相談や質問として寄せられるケースも多く、それに対してタイムリーに回答することも求められているのだとか。飼い主にとって犬は家族と同じような存在だからこそ、正しい知識、早い回答が求められてしまうという。
「返事に時間がかかってしまうと『遅い』と言われることもありますし、質問のレベルも高くなっていると感じます。心配する気持ちはよくわかりますが、だからといって専門知識を持たない人間が無責任に答えるわけにはいきません。近い将来、獣医師がチャットで答えたり、LINEで答えられたりする時代が来ると思いますので、そこに対応できる人材を揃えていくことも考えていますし、ファンとのコミュニケーションを図る実店舗でも、そういう相談にお答えできるようにできればと考えています。そのためには獣医師や薬剤師、登録販売者などの有資格者の採用が必須となりますので、アプローチは行ってはいますが、なかなか難しいのが現状であり、課題ですね。」
さらに、犬の健康長寿に特化したフード製造をビジョンとして掲げる同社が、開発に取り組んでいるのが、高齢犬向けの介護用流動食である。
「実は、介護用流動食の研究開発を行うために立ち上げたのが株式会社ズークスなんです。なので、『DOZO』の前から介護用流動食の研究や試作を行ってきたのですが、なかなか難しい問題があるため開発を一旦保留にし、それに代わる物として開発したのが『DOZO』なんです。今は『DOZO』を主力ブランドとして成長させるために力を入れている状況ですが、いつか必ず実現させたいと思っています。」
愛犬家ならば誰もが、1日でも長く“家族”である犬との生活が続くことを願っています。その実現に向けてフードや各種サービス、そして強い使命感を持って飼い主と犬との生活をサポートしようと活動を続けている株式会社ワイエス・ワン。今後の動向に注目したくなる企業である。
