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ストーリー
香川県琴平町の象頭山の中腹に鎮座する金刀比羅宮。「こんぴらさん」の名称で知られる金刀比羅宮は永い歴史があり、江戸時代には「お伊勢参り」と並び称されるほどの人気を博し、今に至っている。その境内(参道)で780年以上にわたって、神事のお手伝いとご利益をお裾分けする飴・加美代飴(かみよあめ)の製造販売を続ける、株式会社五人百姓池商店。この五人百姓とは、金刀比羅宮が琴平町に来る際、お供してきた5つの家系のことであり、神事の手伝いを続けながら、旅人が四国の海を越えて持って帰れるお土産として今も参拝者向けに飴を作り続けている5軒の飴屋を指す。
その由緒ある5つの家系のひとつが、五人百姓池商店である。歴史ある老舗飴屋の経営はもとより、観光庁が認定する香川県「観光地域づくりマネージャー」として、琴平町の活性化と未来に向けて活動する同社の代表取締役である池龍太郎氏に自社事業と地域創生への思いをうかがった。
五人百姓を牽引する若き28代目当主の挑戦
株式会社五人百姓池商店の創業は、鎌倉時代の寛元3(1245)年10月24日とされている。これは、天皇家より金刀比羅宮の神事を支えることへの勅命が届いた日を記念してのことであり、老舗の中でも桁違いの歴史を持つ同社の28代目が池社長である。
五人百姓の家では、当主が別の職業に就きながら家業を承継するのが通例となっており、それは池家も例外ではなかった。池社長は大学卒業後、銀行、琴平町役場の職員を経て、2023年に家業を承継した。
「両親から家業を継いでほしいといわれたことは一度もありません。ただ、神事の際に礼装である上下に着替えて出て行く祖父と父の姿を『かっこいい』と思ってみていましたし、母が小さな子どもにも理解できるような言葉で池家の話をしてくれましたので、4歳の頃には家業を継ぐと決めていました。祖父と父が定年まで外で働いていましたので、自分も琴平町のことを知り、この地域を良くする仕事をしたうえで時期を見て家業を継ごうと考えていました。」
ところが、新型コロナウイルス感染症の蔓延によって事情が一変する。緊急事態宣言の発令によって参拝者の姿が消え、参道にある店舗は休業を余儀なくされたのだ。多くの観光地同様、金刀比羅宮を含む各店舗は未曾有の危機を迎えたのである。まだ町役場に勤務している状況だったが、池社長はこのタイミングで店舗のリニューアルを行った。


「以前の店舗は、参道を埋め尽くすほどの参拝者が買い物をしやすいように商品を並べているだけでした。ここが歴史ある飴屋だとは誰もわからないようなつくりだったのです。また、地元の人からすると金刀比羅宮は初詣には訪れるけれど、基本的には観光客が足を運ぶ場所という認識でした。その状況を変え、五人百姓と金刀比羅宮の関係、古くから伝わる加美代飴の歴史を伝えられるような店にしたくて大規模な改装を行いました。コロナ禍という大変な状況のときだからこそ、町や地域の人々を鼓舞するためにも、池商店が変わらなければいけないという思いでした。」
新店舗は、代表的な商品である加美代飴をはじめとするショッピングフロアに加え、ガラス越しに飴を製造する様子が見られる飴工場、カフェスペース「茶堂」を併設。また、池社長は香川県産にこだわった新商品開発に向け、県内の農業生産者などを訪れるなど奔走した。悠久の歴史と伝統を守りつつ、あらたな時代に向けて魅力を発信する活動をスタートさせたのである。


歴史と伝統、香川県産にこだわり魅力的な新商品を生み出す
加美代飴は五人百姓の5軒が共同で製造の権利を有し、販売は参道にある店舗のみに限られている。江戸時代には全国各地からやって来る参拝者が、ご利益のお裾分けとして加美代飴をお土産として持ち帰り、扇形の飴を割って味わっていたという。そのため、加美代飴はとても溶けにくいつくりになっており、この製造技術を活用した池商店のオリジナル商品が、「恵みの飴」シリーズ。香川県が開発したオリジナルブランドのゴールドキウイ「さぬきゴールド」や、同じく香川県のオリジナルブランドである「さぬきひめ」というイチゴなど良質なフルーツを飴でコーティングしたものである。

さらには、自社製の飴と香川県・高瀬産の和紅茶やほうじ茶とブレンドした「あめ茶」も開発。いずれも、まだ全国的な知名度は低いが、香川県産の良質な地域資源を用いて商品化することで、町の後押しになればという池社長の思いが込められている。
また、新商品として香川県産のサトウキビと香川大学が開発した希少糖を原料とする瓶詰めの「あめシロップ」を、2026年3月頃から発売する予定だという。この新商品誕生の背景にも、香川県産にこだわる池社長の熱い思いと志がうかがえる。

「以前、香川県庁から飴を県産品コンクールに出品しないかと連絡を受けたのですが、飴の主原料である砂糖が県外のものであるため出品できなくなってしまいました。そのときに『これでは本当の意味で香川県のお土産とはいえない』と悔しい思いがありました。もともと香川県にはサトウキビ畑がたくさんあったらしいのです。だから、和三盆や砂糖菓子も多く作られるようになったのではないかと。おそらく五人百姓の飴も先祖たちは香川産の砂糖で作っていたと思うのです。そこで、県庁の担当者に県内でサトウキビ畑をやっている農家さんを調べていただき、東かがわ市に数軒あることがわかりました。そこで、サトウキビの栽培から、収穫したサトウキビを煮詰めて黒糖化するまでの作業を行っている農家さんに会いに行ったのです。年配の男性がほぼひとりでやられており、私の思いを伝えたところ喜んではくださったのですが、すでに契約されている会社があり、新しいところに卸すだけの余力がないと。それでも諦めきれず、県庁と市の担当者に、これからサトウキビの栽培を始めるあらたなチャレンジャーが現れたら教えてほしいと伝えて帰りました。それから2年が経った頃、その担当者から『あらたなチャレンジャーが現れました。』と連絡を受けたのです。すべてのスケジュールをキャンセルして、すぐに会いに行きました。私よりひとつ年下の新規就農の男性でした。そこでも私の思いを伝えたところ『わかりました。』と承諾いただいたのですが、実はそのかたは2年前にお会いしたサトウキビ農家の男性の息子さんだったのです。父親が高齢になったため家業の農家を継ごうと考え、あらたに自分でサトウキビ畑を始めたということでした。」
業種は異なるものの、家業を継いで歴史を紡いでいく決意をした者同士の共感が生まれたというドラマチックな展開であるが、池社長の思いと行動は人の心を動かすことは確かだ。それは池商店の経営にとどまらず、琴平町のあらたなまちづくり活動でも遺憾なく発揮されている。

「小さな観光大使」づくりに向け、町の歴史と魅力を伝え続ける
池社長は、780年以上続く老舗飴屋の経営者という顔に加え、香川県「観光地域づくりマネージャー」という顔をあわせもっている。これは観光庁が認定する制度であり、同庁のホームページには「観光地域づくりに関して地域が目指すべき方向性を企画・立案し、関係者との認識共有および合意形成を行い、かつ、具体的な事業の実務を適正に実施するために必要な知識および経験を有する者」と記されている。琴平町で、池社長はこの役割を担っているのだ。
江戸時代、「一生に一度は、こんぴら参り」といわれていたが、池社長は「人生で何度でも訪れたくなる町へ」をコンセプトに、店舗では「人に伝えたくなる琴平学」を開講。さらには町内の学校での講演、全国各地での旅行説明会や香川県のPRイベントなど幅広いフィールドで精力的に活動している。その原点となったのは、琴平町役場の職員時代に成人式の式典で行っていたスピーチだという。
「就職や進学で県外や市外に出ていく若者が多く集まる中、琴平町に魅力を感じて好きになってもらう最後のチャンスだと考え、若手職員プロジェクトチームを結成して、毎回15分ほどのプレゼンテーションを行っていました。うれしいことに、そのプレゼンテーションを聴いたことをきっかけに琴平町役場の職員になってくれた男性もいるんですよ。」
また、コロナ禍で町自体が危機的な状況に陥った2021年には、有志が集い今後の町の在りかたについて勉強会が自然発生的に行われるようになり、「こんぴら十帖」という取組に発展。毎月10日に行われる金刀比羅宮の縁日を盛り上げるために、町内の飲食店が限定メニューを提供する他、各種イベントを実施しているという。だが、この「こんぴら十帖」は数あるプロジェクトの中のひとつに過ぎない。2年前には町役場や商工会議所と一緒に、コロナ禍で5年間中止されていた「こんぴら歌舞伎」の復活など、池社長は町の活性化とあらたなまちづくりに向けた数々のプロジェクトの企画・運営に携わっている。そんな池社長が目指しているのは「小さな観光大使」を増やすことだという。


「池商店を訪れて『人に伝えたくなる琴平学』を聞いてくださったかたの中には、もう4回も5回も金刀比羅宮に足を運んでいただいているお客さまもいらっしゃいます。しかし、私ができる活動には限界がありますし、仮に県外で琴平町の魅力を伝えても『それは地元の人だから。』で終わってしまいます。そうではなく、私の話を聞いてくれたかたが小さな観光大使となって、今度はそのかたが家族や友人に五人百姓や琴平町について伝えていただきたい。金刀比羅宮を参拝して終わりではなく、この町の歴史や魅力に触れてファンになっていただけるように、私たちは努力を続けなければいけない。そして、そういうかたが一人でも多く訪れてくれるようになったときに、今の活動が実を結ぶのだと思っています。これは私だけではなく町の皆さんの想いでもあります。いつの日か、琴平町の名が世界へと広がっていくことを目指して、これからも活動を続けていきます。」
池社長の言葉の端々から、五人百姓を守り続ける意志、琴平町ならびに香川県への熱い想いと本気度が伝わってくる。“町おこし“は全国各地で行われているが、何をするのかではなく、何を伝えるのか、が大事である。行政だけではなく、町の人々の想いと行動が伴って初めて、その地域の魅力が発信されるのではないだろうか。株式会社五人百姓池商店の持続可能な経営とまちづくりに挑戦する池社長の今後に期待したい。
