Sony Bank GATE
ストーリー
2016年、ソニー株式会社より従来のスマートウォッチとはコンセプトを異にする、アナログ時計の魅力とスマートウォッチの便利さを共存させた製品「wena(ウェナ)」が発売された。バンド部分にスマートウォッチ本体を組込み、ヘッド部分を好きな時計に交換できるこの製品は、改良を加えながら進化し、第3世代の「wena 3」まで発売されたが、残念なことに2026年2月末をもってサービスの提供が終了した。しかし、多くの「wena」ファンからの惜しむ声に後押しされ、シリーズの生みの親である對馬哲平氏が独立し、想いをひとつにする5人の仲間と共に、augment AI株式会社を起業。同社にて、新世代の「wena」として機能を進化させ洗練さを増した「wena X(クロス)」の開発に取組んでいる。ソニーから羽ばたいてスタートアップという道を歩み始めた理由、新機種「wena X」の概要、同社が目指す世界観について、代表取締役CEOである對馬氏にうかがった。
wenaの意思を引き継ぎ、仲間と共に新会社にて新たな挑戦
2014年、大阪大学工学研究科を卒業した對馬氏は、ソニー株式会社に入社。新入社員研修時に、学生時代から温めていたアイデアを「wena wrist」として発表したところ、スタートアップの創出と事業運営を支援していた当時の新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program」(現在はSony Acceleration Platformとして発展)の社内オーディションに合格。これを機に、同期社員3名とプロジェクトを立ち上げ、入社からわずか2年目の2015年にwena事業の責任者となった。いわば、企業内起業という形で事業がスタート。腕時計本来の価値を損なわせない唯一のスマートウォッチを目指し、2016年に初代「wena」の一般販売が開始された。ちなみに同製品は、クラウドファンディング「First Flight」(注:現在はサービス終了)で約2,000人から国内初の1億円以上の支援を集めたことでも大きな話題となった。

2017年12月には第2世代を発売。熱烈なファンを生み出した。新機能を搭載した第3世代「wena 3」が2020年に誕生し、時計メーカーのSEIKOやCITIZENとコラボした商品も発売されさらにファンを増やしたが、事業戦略を総合的に検討した結果、サービスを終了することとなった。
「wenaは、私が学生時代に考えたアイデアで、新入社員だった私が立ち上げた事業です。私にとっては、人生の一部であり、子どものように大切な存在です。正直、悔しさもありましたが、それ以上に『どうしても諦められない。』という想いがありました。」
ソニーグループ株式会社から商標・特許の譲渡を受け、「wena」開発チームが独立・起業する形で、2025年7月にaugment AI株式会社を設立。かつての同僚、大学時代の友人たちと共にスピンアウト起業を果たした。大学時代に抱いていた「いつかは起業して、自分自身のこだわりや想いを具現化したものづくりを目指したい。」という願いを実現したのである。
新たなコンセプトの元、「日本発・世界最小スマートウォッチ」(*1)を開発
對馬氏曰く、新たに発売される「wena X」は「これまでのすべての知見を詰め込んだ集大成」だという。第3世代までの「wena」は、お気に入りの腕時計をスマートウォッチへと変えることをコンセプトとしていたが、新世代の「wena X」は抜本的に構造を見直し、ワンタッチで腕時計の姿とスマートウォッチの姿を行き来できるモデルとなっている。
「スマートウォッチのユーザーは、運動時と睡眠時に利用するケースが多いのですが、これまでの『wena』は腕時計に取り付けるタイプだったため、最も利用されるシーンでの活用が難しい側面がありました。その問題を解消するため、腕時計として使っている状態から、ワンタッチでスマートバンドの状態に変身できるスタイルに変更しました。」

また、「wena X」のストロングポイントとなるのが、小型化と装着感。小型化に関しては、「wena 3」と比較して全長が約8.5%小さくなっているが、これは特許出願済の新構造を採用したことと、超省電力 wena OS(RTOSベース)を搭載していることが大きく寄与している。また、小さくなっているにも関わらず、ワイド型カーブAMOLEDを採用することでディスプレイの表示領域は72%拡大し、画素密度も118%の向上を実現。 「wena 3」までモノクロだったディスプレイをフルカラー化し、フォントやアイコン、色使いに至るまで細部にこだわったという。
(*1)1.0インチ以上のフルカラーディスプレイを搭載した主要メーカーのスマートウォッチを対象に、各社公開仕様およびアルキメデス法による実測値をもとに比較(営業者調べ、2026年3月17日時点)

「デザインについては、腕時計そのものが持つデザインと世界観を壊さないことにこだわりました。例えばディスプレイやバッテリーは単純な平面のものではなく、手首のカーブに沿うようカーブしたデバイスを新たに開発しました。『wena』は腕時計に取り付けられることがアイデンティティになるので、取り付けた際に違和感なく使えることを目指しました。最近のスマートウォッチはスポーティーなデザインが多いのですが、われわれは腕時計文化を尊重しているので、使われているステンレス素材や形状はもちろんのこと、ソフトウェアUIに関しても非常にこだわって作っています。ゴシック体やカラフルな表現は極力控えて、ミニマルなデザインを追求し、外観のデザイン哲学をソフトウェアにも落とし込んでいます。ハードとソフトが一体となって初めて『wena体験』が完成するので、そのあたりも、ぜひ注目していただけたらと思います。」

さらに超省電力「wena OS」(RTOSベース)を搭載することで細かいスリープ制御などを行い、一般的なスマートウォッチの半分以下の超小型バッテリーにも関わらず連続動作時間は最大1週間を実現。
なお、ソフトウェアをシンプルなUIで設計したメリットは、操作性の簡略化にも生きている。従来のスマートウォッチは複雑なUI設計になっているため、様々な操作が必要になるが、「wena X」は片手でのジェスチャー操作で大部分をコントロールできるよう開発を進めているという。
優れたセンシング技術による運動&睡眠に関する機能の充実
スマートウォッチには運動時の心拍数の計測や、睡眠時の状態を判定するなど多彩な機能が搭載されているが、その測定の正確さを左右するのがセンシング精度である。「wena X」は5つの生体センサーを内蔵したことで、これまで以上に精度の高いセンシングが可能になっているという。例えば、心拍センサーの精度に関しては「wena 3」が86.8%の精度だったのに対し、「wena X」では3波長統合型光学式心拍センシングを用いることで93.3%に向上(*2)している。
(*2)常動作とwalking/runningを含む独自評価用プロトコル全体において精度向上を確認。
「今回の『wena X』では、運動と睡眠に関する機能の充実を図っていますが、特に運動機能はかなり強化されたものになっています。スマートウォッチには、ランニングやサイクリングなど特定の運動に特化して心拍数や距離などをリアルタイムで測定するスポーツモードがありますが、『wena X』は130種類以上のスポーツモードに対応する予定です。さらに、トレーニングの疲労からどれだけ回復したかを表示や、疲労から回復するためのリカバリー時間を表示するなど多彩な機能がありますので、こちらに関しても十分ご満足いただけるレベルになると考えています。」

また、日常的にスマートウォッチを利用しているユーザーにとって関心の高いペイメント(支払・決済)機能に関しては、NFC決済(*3)への対応が進められており、実現した場合には様々な場面での支払も「wena X」ひとつで可能となる。個性的なデザイン、多彩な機能に加え、利便性の高さも「wena X」の特長といえるだろう。
(*3)国際ブランド対応に向けて開発中。
「現代は非常に便利な世の中になってきていますが、それが故に不自由になっているところもあるのではないかと思っておりまして。スマートウォッチでいうならば、毎日充電する必要があるとか、小さな画面を片手で操作しなければいけないとか、いろんなことが制限されてしまう。また、本当に自分の好きなデザインを身に付けることができず、みんなと同じデザインの製品になってしまうことも挙げられます。そんな不自由さをどんどんなくしていくような製品作りを行っていく意味で、この製品は『便利を自由に』をコンセプトとしています。」

なお、「wena」発売から10年目を迎えることを記念し、10周年記念モデルの発売も予定されている。本モデルは、装着感を重視したケース設計と、wenaの文字板フィロソフィーを受け継ぐデザインを採用。さらに、「wenaが本体であること」を象徴するために、ケースまでガラスで作製されたフルスケルトンモデルとして仕立てられている。腕時計とスマートウォッチが一体となるwenaの思想を、機械式腕時計として表現した記念モデルになる予定だ。また、バンドにはフランスの伝統的な職人技術で仕上げる「ジャン・ルソー」のカーフ革バンドを採用予定。wenaの思想を腕時計の文脈にまで拡張するために、素材と仕立てにも一切妥協していない。
人間の五感と身体に介入する独自のフィジカルAI領域を追究
同社にとって、スマートウォッチ「wena X」は象徴的な代表製品であることは間違いない。しかし将来的に目指している会社の世界観はスマートウォッチにとどまるものではなく、その志向はaugment AIという社名に表現されているという。
「社名は、技術によって人間の能力を補完/向上させることを意味する『人間拡張(オーグメンテッド・ヒューマン)』と、今各方面で話題になっている『フィジカルAI』から取ったものになります。フィジカルAIと聞くとロボットや自動運転に代表されるような人間に代わって作業するものをイメージされるかと思うのですが、われわれが目指しているのは人間の五感と身体に作用するAIの開発です。AIを搭載したロボットが何でも自律的に行うような世界になったとしても、われわれの身体がなくなるわけではありません。身体への物理的なケア、介入のためにデバイスを活用したいと考えています。リアルタイムに身体をセンシングして得たデータを元に介入していく。それによって健康寿命の延伸に貢献できればと考えています。」
對馬氏は、ソニー株式会社在籍時から自身が志向するフィジカルAIの開発に取組んでおり、すでに別商品の構想があるという。

受け継がれる、ものづくりの思想
「ありがたいことにSNSなどで『wena 3の次期モデルを発売してください。』という声をたくさんいただいています。次のモデルを楽しみに待ってくださっているお客さまが、こんなにもいるのかと。それも私が起業を決意した大きな理由のひとつです。コメントのひとつひとつが起業を後押ししてくれました。私たちが目指しているものは万人に受け入れられるというよりも、一部の人たちに強く必要とされ、その人たちに喜んでいただけるような製品作りです。スタートアップの戦略としても、大企業のようなマスに向けた製品ではなく、大企業が参入しづらい限定されたニッチな領域で挑戦することが重要だと考えています。大企業で培ったものづくり経験や品質、設計思想といったことに加えてスタートアップならではのスピード感と覚悟を掛け合わせて、ソニーではできなかったことに挑戦していきます。私を含め共同創業者たちは、日本発のスマートウォッチ『wena』プロジェクトに人生をかけて取組んでいます。ぜひ、この挑戦を応援していただけたらうれしいです。」
戦後間もなく、東京通信工業株式会社として創業したソニーは、日本初のテープレコーダー、トランジスタラジオを開発するなど、先進的な技術をベースに様々な製品を生み出すとともに事業領域を拡大して世界的な企業へと成長していった。augment AI株式会社の目指すところはソニーとは異なるが、「ものづくり」に対するフィロソフィーを受け継いでいるような気がしてならない。同社には「人間拡張」×「フィジカルAI」というニッチな領域でポテンシャルを存分に発揮し、国内のみならず世界に飛躍する企業になることを期待したい。

本ページに掲載の情報は開発中のものであり、予告なく変更する場合があります。
「wena 3」までの「wena」はソニー株式会社より発売された商品です。
なお、当該商品は2026年2月末をもってサービスの提供を終了しました。
