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ストーリー

「好きな気持ち」を原点に、カブトムシの力で循環型社会の実現と新たな市場の創出に挑戦

秋田犬・忠犬ハチ公の「ふるさと」として知られる秋田県北部に位置する大館市。この町が、「地球にやさしい未来を創るカブトムシの町」として認知されるようになるかもしれない。そんな未来を牽引しているのが、カブトムシで資源の循環に挑んでいる株式会社TOMUSHI。2019年に創業したばかりの若い会社ではあるが、カブトムシを主体とした、これまでにない事業内容とビジネスモデルが多くの共感を呼び、急成長している企業である。既成概念に捉われない斬新なCSV経営を推進する、同社の代表取締役の石田陽佑氏に、カブトムシにかける想い、事業の未来について話をうかがった。

外国産カブトムシを繁殖し、ネット販売する事業からのスタート

世界を見回しても、日本人ほどカブトムシ好きな国民はいないのではないだろうか。名前に象徴されているように武将の兜のようなフォルムから受ける見た目のカッコよさ、昆虫採集を楽しんだ子ども時代の原体験、ヒーローとして描かれるアニメやゲームなどのメディアの影響など、人気の理由を挙げたらきりがないが、時代を超えて愛され続ける特別な昆虫であることは間違いない。同社の代表取締役を務める石田氏も、カブトムシを愛してやまないひとりである。子どもの頃は、双子の兄である健佑氏とともにカブトムシ採りを楽しみ、甲虫バトルをテーマにしたトレーディングカード型アーケードゲームに熱中していたという。そんな子ども時代からの想いが創業の原点となった。

1997年生まれ、まだ29歳の石田氏は、青森県の高校を1年で中退し、地元のタイル施工会社に就職するもアレルギーを発症して1年で退職。その後、祖父母と暮らしていた秋田県の実家に戻り、猛勉強の末に青山学院大学へ進学。1年生の時に4年分の学費を注ぎ込み、東京のIT系企業に勤務していた健佑氏を含む友人5人とWeb・SNSマーケティング事業を行う会社を起業するも、うまくいかずすぐに解散。大学を中退し、兄・健佑氏と秋田県に戻ることになる。20代前半にして、すでに波瀾万丈の人生を送ってきたその経験で培われたバイタリティが同社躍進の源ともいえるが、そこに至るまでには、さらに時間がかかった。
「大学を辞めたことは伝えずに、祖父母の体調が心配だからと秋田に戻ったのですが、そこから私と兄のニート生活が始まりました。何をするでもない日々を過ごしていた中で、子どもの頃はおばあちゃんの車でカブトムシを採りに行ったなという話になり、なぜか夜な夜なカブトムシ採りに出かけるようになったのです。ところが、1週間経ってもメスしか採れなくて。もう悔しくなって、次の日にインターネットのサイトで売っていたヘラクレスオオカブトを買ったのです。そこが始まりでした。」

祖母のクレジットカードを借りて購入したのは、30万円のオス1匹、1万円のメスを10匹。合計で約40万円の買い物だった。「孫が欲しがるなら1匹数百円程度のカブトムシくらいかわいいもの」だと思っていた祖母は、クレジットカードの明細を見て腰が抜けるほど驚いたそうだが、それも無理はない。何が目的で高額なカブトムシを購入したのか、その意図がわからなかったのだから。
「カブトムシを繁殖して売るのだと説明したのですが、祖父母は非常に懐疑的でした。周りの人たちからもすごく心配されたようですし、バカにもされたようです。これは見返さなきゃいけないという思いで、兄とカブトムシを育てた結果、10匹いたメスが1,000個以上の卵を産んだのです。」
孵化した約600匹のうち、200匹ほどの幼虫を販売したところ約200万円を売り上げ、祖父母を納得させたうえでカブトムシの飼育事業を立ち上げるため、2019年に同社の前身となる株式会社リセット&マラソンを設立。兄・健佑氏とともにヘラクレスオオカブトを主体とした外国産カブトムシの生体販売事業をスタートさせたのである。
ちなみに、兄の健佑氏は2024年に秋田県大館市の市長に就任。全国最年少市長の誕生は、多くのメディアに取り上げられた。また、2025年発売の『Forbes JAPAN』にて、30歳未満で次世代を牽引する若い才能に光を当てる「30 UNDER 30」に兄弟揃って選出されるなど、事業のみならず、若き双子の存在が各方面から注目を集めている。

カブトムシを活用した資源の循環を目指し、独自のビジネスモデルを構築

ふたりが立ち上げたECサイトは、カブトムシマニア注目の的となり、月間PVが15万を超えるなど順調な滑り出しを見せた。当初は、カブトムシ販売で得た収益を元に事業の多角化を考えていたそうだが、どんどんカブトムシの魅力と可能性にハマり込み、カブトムシ以外の事業は行わないと決意。その証として、社名を株式会社TOMUSHIに変更。株式会社を略して「カブ」、「TOMUSHI(トムシ)」と続けて「カブトムシ」となる。「会社を起ち上げるにあたって兄と話していたのは、東京での失敗から『自分たちは金儲けのためだと思って仕事をすると辛くなる。だから、努力とすら思わないような、本気で熱中できることを仕事にしよう。』ということでした。もちろん大変な時期もたくさんありましたが、どの時期も趣味に没頭しているような意識でした。」

そんな中、外国産カブトムシの生体販売事業を拡大するため、さらに複数種類のカブトムシを大量購入したところ、飼育方法の問題やコバエの発生が原因でその多くを失うことになる。経営的に厳しい状況となり、カブトムシの餌として農業や畜産業などで発生する未利用資源を活用する研究を開始。その結果、キノコ栽培の現場で発生する廃菌床などの有機未利用資源をカブトムシの餌に転化することで、廃棄物削減と資源循環を両立するという画期的なビジネスモデルを構築するに至ったのである。
「基本的には農家さんに廃棄物処理活用プラントを用意していただき、その中に廃菌床などの有機物と、それを餌にするのに適したカブトムシを100匹ぐらい入れます。カブトムシのフンとそこで繁殖して増えたカブトムシを弊社が買い取り、フンは肥料に転化し、カブトムシはペットとして販売するほか、魚養殖で使われる魚粉の代替品として販売するための研究などをしています。」

農家側としては、これまで廃菌床などの焼却処理に必要だった費用や手間が省かれるだけではなく、繁殖させたカブトムシが新たな収入源になる。さらには焼却処理によるCO2の発生を削減することで環境負荷を抑えることもできる。同社が開発した、カブトムシによる未利用資源循環ファーム事業は、SDGsの観点からも注目を集め、瞬く間に全国へと拡大。2026年現在、全国100ヶ所以上にてカブトムシによる未利用資源処理活用プラントが展開されるまでに急成長を遂げた。
「農家さんだけではなく、自治体と連携しながら展開しているケースもあります。今のところ各地への営業活動は私自身が行っているのですが、やはりカブトムシを主体とした事業であることが強みだと感じています。実際、事業の説明をさせていただくと、多くのかたから『キャッチーだし、面白いし、未来もある。』という反応があります。われわれもたまに考えるのですが、もしカブトムシ以外の昆虫を使っていたらビジネスが成立していただろうかと。おそらく難しいでしょうね。日本人にとってカブトムシが特別な昆虫だからこそ応援していただけるのだと感じています。」
インターネットで購入したヘラクレスオオカブトの繁殖と販売から始まったスモールビジネスが、今や「昆虫×資源循環」という持続可能なビジネスとして新たな市場を開拓するまでになったのだ。

子どもたちの笑顔と環境教育を目的にイベント事業を推進

同社にとって、外国産カブトムシの生体販売事業、カブトムシによる未利用資源循環ファーム事業に加えて、経営の柱となっているのがイベント事業である。5年前から『カブクワすごいぞ!!』と銘打ち、ヘラクレスオオカブトなど多様な昆虫を展示するだけでなく、来場者が昆虫に触れることもできる体験型のエデュテイメントイベントとなっている。毎年、夏季の7月半ばから8月下旬まで開催しており、今年は全国40ヶ所での展開が予定されているという。「私が子どもの頃は世界のカブトムシをカードで見ることしかできなかったんですね。なので、このイベントを通じて、自分が子ども時代にできなかったことを、今の子どもたちに体験してほしいという思いからスタートしました。特に都心部ではカブトムシを見たことがない子どもがたくさんいるんです。そんな子どもたちに向けて、生き物や自然の面白さや素晴らしさを伝えていければと。」

また、会場内にパネルを設置して、カブトムシには資源循環する役割があるなど、弊社の取組自体をPRしています。資源循環と言われても子どもたちは理解しづらいと思うので、物を大切にしようとか、ゴミをできるだけ出さないようにしよう、というような内容で伝えています。SDGs教育の一環として伝えていくことも、われわれの使命だと思っているのですが、すぐに子どもたちはカブトムシに向かって走って行ってしまいますね(笑)」 イベント期間中、毎日来場する子どもや、同社を調べて「将来、入社します」とメールを送ってくれる子どもがいるなど、どの会場でも大きな反響を呼んでいるという。
「会場でアンケート調査を実施しているのですが、例年、5段階評価で4点が80%ほどを占めていますので、非常に満足度は高いと思っています。運営にあたる弊社のスタッフが『カブトムシ先生』と呼ばれてファンができたりするなど、こんなに喜んでもらえてわれわれのほうが感動しているほどです。」

カブトムシの可能性を信じ、世界の環境課題の解決に挑む

同社では早い段階から事業展開と並行して、複数の外部機関と共同でカブトムシに含まれる昆虫由来のタンパク質を食品素材や医薬品などに転化する研究を進めているという。
「カブトムシを調べれば調べるほど、すごい可能性を秘めていると感じています。たとえば、カイコはすでに動物用や人間用の医薬品に使用されているケースがあるのですが、それに近い成分をカブトムシが持っていることがわかっています。カブトムシの幼虫の体内に存在する抗菌性ペプチドである『カブトムシディフェンシン』は抗がん剤や抗生物質用途に期待されていますし、桑畑から整備して育てなければいけないカイコに対してカブトムシは廃棄物処理を行いながら繁殖させることができるため、原価を安く抑えることも可能であると考えています。また、カブトムシのアミノ酸を活用したヘルスケア用途の商品開発に関しても、非常に高い可能性を感じています。」

一方、既存事業の今後の展開として検討しているのが、カブトムシによる未利用資源循環ファーム事業の海外進出だという。
「弊社としては、国内のゴミ処理問題の解決に向けて、今まで以上に尽力していきますが、日本以上にゴミ処理に関する課題を抱えているのは東南アジアなのです。これも運命的な話ですが、東南アジアは日本よりもカブトムシの種類が多いことからもわかるように、生育環境として非常に優れています。世界的に見ても、カブトムシを使った資源の循環を事業とする企業はありませんので、海外進出に際しても弊社の優位性は高いと考えています。」
カブトムシを用いた地球規模の資源循環のしくみが整備されていったなら、灼熱化など気象問題の改善にも寄与する可能性が高い。同社への期待は高まるばかりだが、短期間で急成長を遂げた同社だからこその課題があるという。

「現在、弊社には約20名の社員がいるのですが、正直言って人手が足りない状況です。よりスピーディーに事業展開を進めるためにも、もっと社員数を増やしたいのですが、カブトムシを主体とした異色なビジネスということがネックになっているのか、なかなか人が集まらないのです。逆に言えば、カブトムシ好きな人の就職先として、数少ない選択肢が弊社だと思うのです。年齢もバックボーンも問いませんので、弊社に興味を持たれたかた、カブトムシ好きのかたに、ぜひ来ていただければと思います。」
秋田県大館市の民家で双子の兄弟が起ち上げたビジネスが、多くの人の共感と支援によって全国、そして世界へ向けて飛躍しようとしている。これからも壁にぶつかることがあるだろうが、同社がビジョンとして掲げる「地球にやさしい未来」の実現に向けてカブトムシのように強く突き進んで行くことを期待したい。