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ストーリー

「待つ問屋」から「需要を生む問屋」へ 4代目アトツギが挑む、新たな玩具文化の創造

古くから日本有数の菓子メーカー・菓子問屋街として知られる名古屋市西区において、1950年に玩具・ゴムフーセンの卸問屋として創業した株式会社堀商店。
以来、時代の変化に対応しながら、75年以上にわたり、玩具・文具・雑貨・菓子などの子ども向け商品の卸問屋として事業を展開。近年は、イベント用オリジナル景品や企業の販促品の企画・製作・販売に加え、自社開発の水鉄砲対戦型スポーツ「ポイポイバトラー」の普及にも取組むなど、卸問屋の枠にとどまらない事業領域へ拡大している。
4代目アトツギとして多角的な経営を推進する専務取締役・堀 新太郎氏に、同社の事業展開および将来の展望について話をうかがった。

総合商社勤務から家業の玩具卸問屋に転身した4代目の挑戦

堀商店の4代目、堀 新太郎氏は名古屋で生まれ育ち、慶應義塾大学商学部への進学を機に上京。卒業後は双日株式会社に入社し、鉱産資源の輸入および国内販売に従事した。8年間の勤務のうち、最後の2年間は南アフリカに駐在した。
本人の言葉を借りれば「商店の軒先で育った」というように、商売人に囲まれて育った環境もあり、幼少期から将来は自らビジネスを行う姿を思い描いていたという。
「当初は具体的なイメージがあったわけではありませんが、高校時代から自ら価値を生み出し、その対価を得る立場を志向していました。将来のビジネスに資する経験を求め、商社業界を志望しました。入社後は、商売の規模よりも個人として業務を完結できる環境を重視し、営業職として鉱産部に配属されました。南アフリカから原材料を輸入し国内メーカーへ供給する業務に従事した他、駐在中は日本製品の現地販売にも携わりました。」
家業を継ぐ選択肢はもともと存在していたが、父から明確に継承を求められたことはなく、むしろ「地方の中小企業にとどまらず広く活躍してほしい。」と伝えられていたという。

転機となったのは30歳を迎える頃。祖父母の介護に直面し苦労する父の姿を知ったことだった。弱音を吐く姿を見せることのなかった父の変化は、事の重大性とともに、自身の将来について深く考える契機となった。
「先輩達に恩返しができていないことに後ろ髪をひかれつつも、より直接的にお客さまに喜んで頂ける、家業である堀商店の商売に面白さを感じました。感情に流されることなく、事前に経営状況を確認したうえで『非常に良い会社であり、成長余地も大きい』と判断し、これまでの経験を生かせると考えて入社を決意しました。」
2019年、双日を退職した堀氏は名古屋へ戻り、同社に一社員として入社した。将来への期待を抱いてのスタートであったが、その翌年には新型コロナウイルス感染症の拡大により社会・経済環境が大きく変化する。同社もその影響を避けることはできなかった。

コロナ禍の逆境をポジティブに捉え、新商品開発を通じた広報活動戦略を展開

玩具・ゴムフーセンの卸問屋として創業した堀商店は、雑貨店やゲームショップの展開を経て、1990年代に本店以外の店舗事業から撤退し、2002年にはいち早くECへ参入した。現在は売上の大半をECが占めており、これら一連の変革は、社長である父の先見性に支えられてきたものである。
「入社時点で、経営および業務体制はすでに確立されており、少人数ながら高い生産性が実現されていました。外回り営業を前提とする事業でもないため、大きく手を加えるのではなく、自身が価値を発揮できる領域を見極める必要があると考えました。その中で、『第一想起される存在』になることの重要性に着目し、広報強化に注力する方針に至りました。」
こうして堀氏は、広報活動の一環として玩具の自社開発に着手するが、ほどなくしてコロナ禍に突入する。

「売上は一時的に落ち込んだものの、新たな挑戦に取組む契機と前向きに捉えていました。一方で、全国的に祭りが中止となり、収益の柱である夏祭り需要が消失したことは大きな懸念でした。しかしそれ以上に、日本の祭り文化そのものが失われることへの危機感を強く抱き、何らかの対応が必要だと考えました。」
そこでまず取組んだのが、地元のPR会社 株式会社一旗と連携した「セルフ縁日」の企画である。この商品は、クラウドファンディングやメディア露出を通じて認知を高め、大きな注目を集めた。さらに2021年には、新商品「ポイポイバトラー」を開発。単なる玩具の販売にとどまらない展開を見せている。
「水鉄砲は玩具の中でも大きなカテゴリですが、『遊び方が定義されていない』という声が社内から上がりました。そこで当初は、公園で気軽に楽しめる遊びを目指し『ポイポイバトラー』を社員とともに企画。その後、「競技として普及すれば関連商品の販売にもつながる」という発想へと変化しました。結果として試合形式のルールを設計し、大会運営を通じて『ポイポイバトラー』を競技として普及させていく方向へ発展しています。」

2022年には全国300店舗以上で販売され、同社主催の大会も各地で開催された。2023年には一般社団法人ポイポイバトラー協会を設立し、暑い夏を思い切り楽しんでほしいと考えているかたがたと連携した普及活動を推進している。さらに「ポイポイパートナー」制度を通じて約70団体が参画する共創型スポーツへと発展し、2025年には「日経クロストレンド」選出の「マーケター・オブ・ザ・イヤー2025」地方編で大賞を受賞した。
このように、コロナ禍を契機に事業を再定義し、「待つ問屋」から「需要を創出する問屋」への転換を目指した挑戦は、一定の成果として結実している。
「少子化の中で子ども向け事業の成長性を懸念されることもありますが、当社では子どもの人数がそのまま市場規模になるとは捉えていません。子どもや家族に楽しい時間を提供したいという想いの総量こそが市場であり、その創出次第で拡大していくものと考えています。」

子どもたちの笑顔、地域活性化のために「名古屋ハロウィンラリー」を主催

コロナ禍初年度の2020年にスタートし、現在では名古屋の風物詩として認知されるまでに成長した「名古屋ハロウィンラリー」。年々規模を拡大し、第6回となる昨年は名古屋駅周辺から久屋大通周辺にかけて81店舗と連携、8,400名以上の親子が参加するイベントへと発展した。本イベントを発起人として立ち上げたのが同社である。
「学校行事に関わるPTAから、コロナ禍で子どもたちが十分に楽しめなかったという声が寄せられました。そこで、安全に楽しめる体験の提供を目的に、季節性も踏まえハロウィン施策を企画しました。子どもたちが街を巡る特性を生かし、実店舗の認知向上にもつながる取組として、近隣の20店舗と連携してスタートしました。コロナ対策として始めた取組ですが、街にとっても価値のあるものになると考えていました。」

「収益を目的とした事業ではありませんが、参加した子どもたちから『楽しかった』という声を得られたことは大きな励みとなりました。また、店舗側からも好意的な反応が寄せられています。結果として、長期的なコーポレートブランディングに寄与するとともに、これまで接点のなかった地域企業との新たな関係構築にもつながりました。」
第3回からは同社は黒子として関与し、実行委員会形式へ移行してイベントを継続。第7回となる2026年も開催を予定している。なお、子どもたちに楽しみを提供し、地域経済の活性化に寄与したいという思いから始まった本イベントだが、2年前からは防犯を軸とした新たなコンセプトも打ち出している。

「このイベントを通じて、子どもたちが訪れたことのある店舗や顔見知りが街の中に増えることで、いざという時に助けを求めて駆け込める場所が生まれると考えています。そこで、一昨年頃から防犯というキーワードを掲げはじめ、今年度は警察署にも協力を仰ぎ、駆け込み訓練の実施も予定しており、防犯の側面を強化していきます。現在は、防犯とハロウィンを掛け合わせた独自のイベントとして発展しつつあります。」
本取組は、単なる地域イベントにとどまらず、子どもたちに安心と楽しさを提供しながら、地域との「ゆるいつながり」を生み出す新たな価値創出の事例へと独自の発展を遂げているのである。

「楽しい」を創り出すために問屋として果たすべき役割

一時期、コロナ禍の影響で落ち込んだ同社の売上は、「ポイポイバトラー」をはじめとする新商品開発および普及活動などの広報施策により、コロナ前を上回る水準まで回復している。こうした中で堀氏が取組んでいるのが、後継者不在により製造が終了した人気玩具の復刻である。
「現在、製造が終了した人気玩具の復刻に取組んでいます。人気商品が後継者不在のまま失われてしまうことは非常に残念であり、次世代へ引き継ぐことも当社の役割だと考えています。」
堀氏が目指すのは、単なる商品の復刻にとどまらない。
「商品を復活させるだけでなく、駄菓子屋で子どもたちが手に取れる状態をつくることこそが復刻だと考えています。単に商品を再現して収益化を目指すのではなく、駄菓子屋さんで子どもたちが手に取り、『なんだこれ!』と夢中になる体験を生み出し、子どもたちが自然と集まる風景を取戻したいのです。駄菓子屋が減少する中で、居場所づくりに取組むかたがたを支援しながら、にぎわいのある風景の再生を目指しています。」
その背景には、同社が大切にする「問屋」としての考え方がある。
「『ポイポイバトラー』の普及や『名古屋ハロウィンラリー』の運営など、当社の取組は一見、問屋の枠を超えているように見えるかもしれませんが、私たちはあくまで問屋という役割を起点に考えています。問屋とは本来、『帳簿と商品を照らし合わせ、問い合わせに応じるだけでなく、求めに応じて適切に応える存在』を指します。自ら売りたいものを売るのではなく、お客さまが必要とするものを、必要なときに必要な量で提供することが問屋の役割です。すなわち、問屋とはプロフェッショナルな仕事であり、その知識と創意工夫によって期待を超える価値を提供していくことが重要だと考えています。」
この考え方は、堀氏の入社後、社員の声を契機に整備されたものであり、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)としても明文化。同社の価値観を支える基盤となっている。
(MVV全文は事業内容ページご参照)

玩具を通じて人と地域をつなぎ、「楽しい」を生み出し続ける同社の挑戦は、今後も新たな価値と笑顔を広げていく。